今月8日に開幕した恒例のハバナ映画祭こと「国際新ラテンアメリカ映画祭」。
44回目を数える今年は、199本のコンペ作品(キューバ映画は39本で、内12本は他国との共同制作)から、長編フィクション部門では、メキシコ映画の『トーテム』とアルゼンチン映画の『犯罪者たち』が最優秀作品賞を受賞しました。
両作品とも今年の東京国際映画祭で上映されましたが、来年には一般公開されるそうです!
【Totem(原題)】 | 第36回東京国際映画祭 (tiff-jp.net)
【犯罪者たち】 | 第36回東京国際映画祭 (tiff-jp.net)
ちなみに、キューバ映画では『La mujer salvaje(ワイルド・ウーマン)』(アラン・ゴンサレス監督)が審査員特別賞と国際シネクラブ選出の賞を獲得したほか、中・短編ドキュメンタリー部門で『El final del camino』(マリアグナ・ファハルド監督)が受賞を果たしました。
『ワイルド・ウーマン』トレーラー
ところで、今年も2本のキューバ映画(ドキュメンタリー)が検閲で外されました。
新人監督ルイス・アレハンドロ・イェロの『Llamadas desde Moscú(仮:モスクワからの電話)』と、ベテラン監督ファン・ピン・ビラルの『La Habana de Fito(ハバナのフィト・パエス)』です。
『(仮)モスクワからの電話』
『ハバナのフィト・パエス』
これに対し、まず映画祭開催前の2日、「映画人集会」グループがFBに長文の抗議声明を発表。作品の検閲および作家の排斥に強く抗議すると共に、そうした行為は内在する真の問題から目をそらし、キューバの文化と市民生活に深刻な害をもたらしていると告発しました。
その後、「映画人集会」の代表メンバーのひとり、エルネスト・ダラナス監督は、自作のドキュメンタリー『ランドリアン』上映時の挨拶で、検閲と作家に対する排斥を非難。
「ICAICを追放され、投獄され、亡命を余儀なくされた『ランドリアン』のケースは、決して過去のものではありません。いまだに映画人の作品に対し、また国民が自由に映画にアクセスする権利に対し、そしてこの愛する映画祭に対しても、検閲と排斥が行われています」「真の問題は、我々の映画にあるではなく、現実にあるのです」「ランドリアンは《映画人集会》の存在理由を体現しています」。「この上映を《映画人集会》と、検閲や排斥の対象となった仲間たちに捧げます」と発言し、会場の拍手を浴びました。
それから3日後、別の上映会でも、若手監督が挨拶のなかで検閲に抗議しました。
Otro cineasta contra la censura: El Festival de La Habana 'tiene el deber de ser más plural, inclusivo y justo' | DIARIO DE CUBA
このように映画人たちが、オープンな場で《検閲を非難し、表現の自由を求める声》を上げたのは初めてではないでしょうか。ネット空間を出て、公の場で声をあげたことは、人々に勇気を与えたのではないかと思います。
さて、ハバナ映画祭とほぼ同時期、12月4日から10日にかけて、キューバのインディペンデント映画をプロモートする「INSTAR映画祭」が、バルセロナ、ブエノス・アイレス、メキシコ・シティ、マイアミ、ニューヨーク、パリ、サンパウロで開催されました。
〈新キューバ映画の超国家的性格〉に焦点を当てた第4回目の同映画祭は、キューバと同じく専制的国家のニカラグア、ベネズエラ、ハイチ、イランの〈自国のタブーに挑戦する作品〉も招待。相互作用を探究し、対話の道を探りました。
尚、最優秀作品に与えられる「ニコラス・ギジェン・ランドリアン賞」は、MAFIFA(ダニエラ・ムニョス監督/ドキュメンタリー/2021年/キューバ)が獲得しました。
Mafifa
また、マルセル・ベルトラン監督の“Opción cero(オプション・ゼロ)”に「審査員特別表彰」が授与されました。
一方、キューバ文化省は、INSTAR映画祭で、キューバ出身・マイアミ在住のエリエセル・ヒメネス監督のドキュメンタリー”Veritas”が、1961年のヒロン浜(コチーノス湾)侵攻事件を歪曲する作品だとして非難。同映画祭がキューバに対するテロリズムを賞賛しているとして、反INSTAR映画祭キャンペーンを展開しました。
また、『(仮)モスクワからの電話』については、「革命に対する攻撃」と評したそうです。
文化省と映画人の分裂を招いている検閲。融和の糸口は、「映画人集会」の主張にあると思うのですが。
追記
14日、フィト・パエスが検閲を非難し、「映画人集会」を支持する動画を送りました。