ミゲルの島
原題:Una isla para Miguel(直訳すると『ミゲルのための島』)
1968年/ドキュメンタリー/20分
監督:サラ・ゴメス
脚本:トマス・ゴンサレス、サラ・ゴメス
撮影:ルイス・ガルシア
編集:カイタ・ビジャロン
録音:ヘルミナル・エルナンデス、アルトゥロ・バルデス
音楽:チューチョ・バルデス
内容
ミゲルは14歳。外見と粗暴さから「バイキング」と呼ばれる不良グループの一員で、両親を始め誰の言うことも聞かないため、義兄によってピノス島(現「青年の島」)の再教育キャンプに送られる。そこは彼のような問題児(13~17歳)が、集団生活を送りながら、勉学と労働と国防訓練にいそしむところ。その目的は、チェ・ゲバラが唱えた「新しい人間」のような、模範的革命青年に生まれ変わるため。
本作は、収容された少年少女たちを中心に、教育指導者を含め、彼らの日常をありのままに映すほか、ミゲルの家族にも取材し、彼の生育環境にまで踏み込んでいる。
本編
Marysolより
本作は、次の言葉で始まる。
「それら浮浪者たち、脱落者たちは断固たる戦闘的活動を通して民族の道筋を見出すであろう」
フランツ・ファノン「地に呪われたる者」より
キューバ映画研究家のファン・アントニオ・ガルシア・ボレロは、これを〈サラ・ゴメスの明確な戦闘的活動宣言〉と認める一方で、本作に注ぎ込まれた2種のセンシビリティに注目する。ひとつは、希少な女性監督としてのそれ。もうひとつは、ネグリチュードの意識をもった黒人女性としてのセンシビリティ。そこに今日サラ・ゴメスが評価される所以がある、と言う。
また、もうひとつの特長として、ゴメスが現実に根差した姿勢を貫き、決して教条的ではなかったことを挙げる。
一方、革命後のキューバでは、徐々に官僚的な思想が主導権を握っていき、規則の遵守が創造的自由より優勢になっていった。
ちなみに本作で、ピノス島の青年共産党同盟のマリオ・モンソン氏の言葉として「彼らは理由なき反抗者だった。彼らに理由(大義?)を与えるのが、党員としての我々の義務である」とあるが、13歳から17歳といえば〈反抗期〉で、それは親離れするための成長に必須な一段階でもある。
本作の音楽からは、時折り軽やかさやユーモアが伝わってくるが、私はそこにゴメス監督の懐の深さ、人間としての余裕を感じてほっとする。
余談
本作の最後の方でキャンプ名に「サムライ」という名前が付いているように(2回)聞こえた。
もしそうだとすれば、当時の日本映画の浸透ぶりを示す証拠だし、規律正しいイメージもあったのだろう。