『プラサ・カテドラル(仮:カテドラル広場)』2021年
パナマ、メキシコ、コロンビア合作
監督:アブネル・ベナイム(51歳)
2021年のパナマ国際映画祭にて「観客賞」受賞
アカデミー賞外国語作品賞やラテンアメリカ映画のオスカーと称される「プラチナ賞」ノミネート
ストーリー
主人公のアリシアはメキシコ出身の40才の建築家。6歳の一人息子を事故で亡くし、夫とも離婚し、カテドラル広場に面したアパートに引っ越してきた。仕事は続けているが、悲しみと自責の念に苛まれ、生きる気力を失っている。カテドラル広場には、彼女が駐車する度にサービスと引き換えに小銭を要求してくる少年、チーフ(13才)がいた。ある夜、銃撃で負傷したチーフをアリシアは病院に送り届ける。が、彼は警察に移送されることを怖れ、病院から抜け出し、アリシアの家に助けを求めに来る。仕方なく受け入れ、世話をするなかで心境に変化が起きたのだろうか? アリシアは、とつぜん姿を消したチーフを探しに、危険も顧みず奔走するが―
テーマ:パナマ社会に存在する格差、分断、不公正、非情な暴力、マチスモ → 団結
監督の言葉
★テーマについて
社会的格差を超えて、互いを必要とし(だが、それを認めようとしない)助け合う(助けを求めなかったり、遅すぎたり、助けなかったりする)2人を描き、貧富の差を超えようとする作品を撮ってみたかった。だが、映画で極端な貧富の差を解消することはできない。
サッカーをする代わりに銃を手にする子供に罪を着せることはできない。それが彼らに与えられたものだからだ。間違っているのは社会で、社会の問題だ。
★El Chorrillo地区について
チーフが住む、貧しく、犯罪の多発する地域。
旅行者が足を踏み入れようとすると、警官に止められる。
だが、文化的な意味では、最もパナマらしい所。ボクシング選手のロベルト・ドゥランが生まれ育ち、ルベン・ブラデスの歌にもよく出てくる。
パナマ運河の入り口の近くにあり、まさにパナマの心臓部。
かつてノリエガ将軍の兵営があったので、米軍侵攻時には爆撃された。
★高層ビルが象徴するもの
視覚的なインパクトなどポジティブな面もあるが、上に行けば行くほど下の世界からは遠くなる。
最初のシーンで、高層ビルの下にEl Chorrillo地域が見えるが、景色として映ると、きれいで模型のようにしか見えない。
★チーフを演じたフェルナンド・ハビエル・カスタは、El Chorrilloの向かいの貧しいバリオ出身で、オーディションを受けた約250人の中でも際立っていた。
撮影終了から約1年半後、パンデミックで貧困が悪化し、閉塞状況のなか、他のバリオの路上で銃撃され死亡した。映画が公開される前のことだった。パナマでは日常茶飯事のこと。他の少年なら新聞に名前が出ることすらない。
★パナマ映画について
2010年に公開されたコメディ映画『Chance(チャンス)』は、パナマにとって60年ぶりの自国映画だった。
パナマを始め中央アメリカの国々も声をもっている。しかし、その声を映画で使ってこなかった。これからは私たちの番だ。
Marysolより
経済的に豊かだが傷心の主人公の側から描かれるせいか、展開がスローに思えたが、それゆえにラストの衝撃が大きかった。
しかも、そのあと字幕で《撮影後、チーフを演じた少年が路上で射殺された》と知り、もっとショックを受けた!
一瞬にして、何十年も前に観たブラジル映画『ピショット』が蘇り、ラテンアメリカ社会の《変わらなさ》に胸を突かれた。
映像はシャープで、音楽も良かった。
誘ってくれた友人がピアノの演奏は、ダニーロ・ペレスかも…と言っていたので、調べたらその通りだった!しかも、なんと今年4月23日にブルーノート東京に出演予定!
備考
アリシアを演じたイルセ・サラスはメキシコ出身の実力派女優。
夫を演じたマノーロ・カルドナはコロンビアの俳優
アブネル・ベナイム監督のフィルモグラフィー
2010 Chance(仮:チャンス)
2014 Invasión (仮:侵攻事件…ノリエガ将軍追放を目的とした米国による軍事侵攻事件)
2018 Yo no me llamo Rubén Blades(仮:私の名はルベン・ブラデスではない)/ドキュメンタリー
※ ルベン・ブラデスはパナマ出身の有名なサルサ歌手。本作の共同プロデューサー。