続・アルベルト・コルダ | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

続・『KORDAVISION』

前回の記事ではドキュメンタリー映画『KORDAVISION-A CUBAN REVELACION』の概要をお伝えしましたが、書き残したことなどを加筆します。


まずこの映画の音楽についてですが、なかなかセンスのよい選曲で、内容だけでなく音楽的にも魅力を感じました。
映像的には特に目新しいことはありませんが、50年~60年代という時代的センスやスタイリッシュな演出が、個人的には好き。
でも最大の魅力は、被写体!
★コルダ
若いときの姿なんて俳優かと思ったくらい粋な色オトコ。
“チョイ悪”だけど、信念と責任を貫いた、人間味豊かな人生が紡ぎだす彼の語りは、絶妙なナレーションになっています。


☆ノルカ(Norca)
ファッション写真のお気に入りモデル。
キューバ人でありながら、国際的モデルとして通用する女性を求めていたコルダの理想を体現。彼女はコルダと別れた後パリに渡り、モデルとして活躍したそうです。


☆パウリーナ
コルダの写真人生を決定した、貧しい幼女は革命後のキューバできちんと教育を受け、看護婦になり、結婚し、でも病気で早世してしまいます。
遺族を訪ね、革命の光にきらめいたパウリーナの短くとも意義ある人生に思いを馳せるコルダの姿は、静かな感動を誘います…


★チェ・ゲバラ
歴史的なポートレートとなったゲバラ像。その鋭い眼差しは、テロに対する怒りだった。後の、砂糖きび刈り撮影時のエピソードもゲバラらしい。


★フィデル・カストロ
キューバ危機後、フルシチョフ首相に招待され訪問した、冬のソビエトでのスナップ写真を見ながら、「ほらこの時の私を見ろ。まるで熊みたいだ」と愉快そうに語るフィデル。そのお喋りが楽しくて笑いを誘います。
「ニキータ(フルシチョフ)は、フィデルを息子のように愛し、その若いエネルギーを吸収していた」とはコルダの弁。
コルダ持参のポラロイドカメラの技術に「すごい!」と仰天するニキータに、フィデルは一言:「当然さ。米国製だからな」


★コルダと写真家仲間たち
惜しくも今年亡くなった有名な写真家ラウル・コラーレス等との和気あいあいとした語らいや、72歳の誕生日を“27歳の誕生日”に変えてしまうなど、お茶目でユーモラスなコルダの人間的魅力にキューバの魅力が重なります。
上映会場には彼らの姿があり、歴史が身近に体感されました。


§私にとってのコルダ§
コルダを知ったのは、1998年に有楽町の国際フォーラムのギャラリーで開催された写真展がきっかけ。
ノルカをモデルにしたファッション写真に鮮烈な印象を受ける一方、その後の革命を撮った写真のほうは、なんだか殺風景に映り、そのギャップが大きなはてなマークに…
「こんなにハイセンスなファッション写真を撮っていた人が、そのキャリアを捨て、汗と埃にまみれた写真を撮るようになる― その事に彼は本当に満足していたのだろうか?」


今回コルダのドキュメンタリーが上映されると知ったとき、当時の疑問が思い出され、興味津々で映画館へ向かいました。
期待と疑念を胸に、席に着き、監督の挨拶や出演者に型どおりの拍手を送り、

90分後― 

私の目は感動の涙で潤んでいました。
(会場で遭遇した、知り合いのキューバ人カメラマンも泣いてました。彼は私に「ティッシュをくれ」と言ったあとで「僕もコルダと同じ気持ちで仕事をしている」と。泣かせる~)


コルダは人生を左右する決断に対し、後悔するどころか、愛する土地で、愛する人たち(とりわけ美しいキューバの女たち)に囲まれ、信念をもって、人間味豊かな生を全うしたことを実感。彼の報道写真も素晴らしかった!


「時代」というフレームのなかで展開する個人の人生。
ジレンマに葛藤しつつ、あるとき決定的な出会い”が訪れ、決断する。
覚悟を決めたら、あとは最善を尽くすのみ。
選択が正しかったかどうか?
その答えは自分の人生を賭けて出す―
信念を貫き、心の目で写真を撮ったコルダの人生は、とても魅力的でした。
こういう人生に出会えるから私はキューバから目が離せない…


彼はパリを訪問中、彼の地で亡くなってしまうのですが、彼の死を伝える言葉も印象的―
「キューバ中の嫉妬深い夫たちよ。今晩あなたたちはゆっくり眠れるでしょう。アルベルト・コルダが亡くなりました…」


そう、花を愛で、花に水を遣るように、コルダはすれ違う女たちにピローポ(褒め言葉)をかけずにはいられない男だったようです。


私のブログ報告に早速マリオ先生が、秘蔵の写真を贈ってくれました。
心でシャッターを押すコルダ

“シャッターを押すのは心の指” (撮影者:マリオ・ピエドラ先生)