『ハロー ヘミングウェイ』(Hello Hemingway) 1990年 | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

監督:フェルナンド・ペレス
脚本:マイダ・ロイェロ
撮影:フリオ・バルデス
音楽:エデシオ・アレハンドロ

あらすじ

1956年、革命前夜の緊張感が漂うハバナ。
主人公ラリータは、英語が得意な文学少女で、叔父一家が住むハバナ近郊の家に母と居候している。すぐ近くには文豪アーネスト・ヘミングウェイの邸宅があり、ラリータは時々屋敷の庭に入り込んで遊んだり、窓越しに作家らしき人物の姿を見かけたりしていた。

ある日ボーイフレンドのビクトルと寄った書店で、ヘミングウェイの代表作『老人と海』を紹介される。ビクトルから本をプレゼントされて、さっそく読み始めるラリータ。彼女には大学で文学と哲学を学び、資格をとり、いずれは小説を書きたいという夢があった。

だが貧しい境遇では、アメリカ留学の試験に受かる以外、勉強を続けられる可能性はない。難関に挑戦するラリータの姿に『老人と海』の漁師の姿が重なる。そして夢に向かって、ひたすら前進しようとする彼女の前に立ちふさがった問題。それは、留学に必要な“身元保証人”がいないことだった。
困ったラリータは、あの邸宅に住む文豪に助けを求めようとするが…


作品ノート

この作品は監督の父、アルフォンソ氏に捧げられている。
だが主人公は15歳の多感な少女で、映画に引用されている日記は、実際に監督の姉(あるいは妹)が15歳の頃に書いたものだという。また、脚本は監督の前妻マイダ・ロイェロの体験がもとになっている。
映画の時代背景は、前作『危険に生きて』と同じく1950年代(革命前夜)で、両作品とも監督の青春時代を回想した映画と言える。
ただ“叙事詩的”な前作に比べると、同作品は個人的な苦悩や苦境、葛藤に焦点を当てているため、主観性が強くなっている。この特徴は、その後の作品にも受け継がれる。
 ちなみに、監督自身はこの作品について、『シェルブールの雨傘』から音楽を除いたような映画、つまり“やわらかさ”“甘さ”のある映画を撮りたかったと言っている。
また、大人の視点で描くのではなく、その年頃の若者が感じたように撮ろうとしたそうだ。その意図は、ラリータの声(日記)がストーリーを展開させていく作法に認められる。

参考文献:La vida es un silbo:Fernando Perez(Mercedes Santos Moray著)